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借りもの狂想曲

by 葉

ふと、目に留まったカラーボックスに何げなく置いていた高校書道の教科書。パラパラとめくって懐かしい気分に浸りながらこの書体好きだったなあ…また書いてみようかな、筆握りたいなぁなんて思っていた。

とうとう最後のページ、裏表紙にたどり着いて記入してある字と名前を見て、あ。思い出した。

この教科書は、わたしの物ではなかった。この教科書は、卒業する時に書道室にあったものを先生の許可を得て貰ったきた「1-3 17番 宮崎○○さん」の物だった。顔も知らない人の物をわたしはこうして大事に所持していることが、なんだか嬉しくなってしまった。引っ越すごとに色んなものを捨てたり、実家送りにしたりしていたのに、ずっと大事にしている。そして、その持ち主だったであろう人が付けてしまった墨でべらっと汚れていたりする。なんでこんなこと忘れていたんだろう。不思議だ。

決して好きで選んだのではなく、消去法で「書道」を選んだような、そんな気の抜けるようなメモが愛おしくなってしまった。

人の交わりはひょんなところにもあるんだと、今になって気づいた。これは、勝手に貰ってきた借り物だな。絶対、そんなことなんて知らない「1-3 17番 宮崎○○さん」は、このことを知ったら気持ち悪いだろうな。ははは。

”書道の師範になりたい”というわたしの夢は、大学に入ってからも捨てきれずに、全く関係のないところからマンツーマンで教授のゼミ室に毎週通い詰めるほど現実的なものだったよ。わたしは書道をやっている人達と比べるとさして上手くない。だから、家で自分なりに練習したものを持って添削指導してもらう金曜1限はひどく緊張していた。

「多才だね」そう言われることも増えてきた今でも、「いやいや、そんなことないですよ。苦笑」と返事をしながら中途半端で終わらせてしまった色んなことが頭の中を駆け巡る。やりたいことは沢山あったし、仕事と家の往復になってしまっている今の自分を考えると、何かやりたいなという気持ちは常にある。泣く泣く諦めた夢も、ほっぽり出した夢も、全部中途半端だ。

器用貧乏なんですよね…。と言いながら、何か一つに長けている人がとても羨ましい。たまたまこうなった今の私が、ちょっと恥ずかしいし情けなく時もある。

だから、またいつか書道を再開する日まで、時々こうして思い出そう。あの頃の、夢と希望に満ちた日々のことを。青く突っ走った日々のことを。

「大人」に慣れちゃいけないね。

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